2014年03月10日

ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ〜あしながおじさんより〜』シアタークリエ


 http://www.tohostage.com/ashinaga/
 3/4昼の部を観劇してきた。ジルーシャ役に坂本真綾、ジャーヴィス役に井上芳雄、キャストは二人きりのミュージカル。2012年以来、今回で三度目の再演らしい。好評もよくわかる、役者さんの演技と、何より脚本がとてもよかった。

 http://www.daddylonglegsmusical.com/
 もともとカリフォルニアで初演された作品で、ロンドンなど各地で上演され、日本人キャストの翻訳版になったものだそう。脚本・演出はオリジナル版のジョン・ケアードで、セットも劇評の舞台写真を見る限り同じなので、海外版に忠実な翻訳なのじゃないかと思う。わたしはミュージカルそのものをあまり見たことがないのだけど、ロンドン版の舞台写真を見たとき本棚に囲まれたセットにぐっと心をつかまれ、いつか機会があったら見てみたいなと思っていた。

 この本棚と書斎はずっと舞台の上にあるままで、多少窓があいたりするほかは場所が移っても大きな転換はない。たくさんのトランクがあり、すべて二人の役者さんが動き回って、中からものを出したり箱を動かして積み重ねたりして変化を出しながら進行する。その場でしゃべりながら細かく着替えもする。楽しい。


 http://www.johncaird.com/index.html
 脚本・演出のジョン・ケアード、すごいひとなんだな〜。たまたま誘っていただいて何も知らずに行ったけど、いや、いいものを見た……。

 原作のジーン・ウェブスター『あしながおじさん』は100年とすこし前にカナダで発表された話で、当時としては先進的なところはあったけれど、「お金持ちの男が聡明な孤児の少女にお金と教育を与えてひきあげてやり、結婚する」という直球のシンデレラストーリーは、どうしたってそのままでは現在の成人女性には響きにくい。その引っかかる箇所を、このミュージカルでは脚本の工夫で上手にクリアしている、と思った。

 意欲はあっても、恵まれない境遇のため足りない部分のあった女の子が、本をどんどん読んで知的に成長していく。そのさまを、舞台の上にちらばる大きなトランクから次々に本を出して舞台の縁に並べていくことで表現する。そしてお金や知識はあってもやはり欠けた部分がある男が、彼女の手紙を読み、本棚にどんどん貼っていくことで心の成長をみせる。知性VS心、というのは類型的ではあるけれど、どちらが上というのでもなく拮抗しながら(いや、どちらかというと女子優勢のふりまわしモードで)お話はすすんでいく。

 読むことと書くこと、ことばの応酬と積み重ね。書簡体の原作にならって、せりふも詞も大半が手紙文だけれど、ひとつの手紙のフレーズや単語をうまく男女にわりふることで、ときにはバトル、ときには励まし、ときには期せずして愛の告白と、関係性をめまぐるしく変えながら生き生きと描いていく。それぞれが細かく受け持つことばの取り方によって、「そのとき何をいちばん大事に思っているか」が、まっすぐ伝わってくるしくみ。うまい。

 会場は満員。ジルーシャ役の坂本真綾さんは元気いっぱいでほんとに可愛い。長くてボリュームたっぷりのスカート姿で舞台上に散らばる大きなトランクをどんどん押して動かしたりするのがほんとに、見てるだけで胸がきゅっとなる。ジャーヴィー坊ちゃんの井上芳雄さんも、プライドと罪悪感に揺れる、ちょっとこどもっぽい、恋する男を好演。どちらも「自分だけで、周りの誰も見てないと思ってる時間」がずっと続くので、隙だらけの可愛げが全開になる。この二人の憎めないキャラクターで、原作の設定やストーリー上の古めかしさ、気になる点を大幅にカバーしている感じ。男性からの視点をがっつりと入れて補完しているために、ああ、そっちも悩み、逡巡していたのね、とすんなり「許してあげる」ことができる。ちょっと『高慢と偏見』のミスター・ダーシーを連想した。
 
 歌の訳詞がいまひとつ日本語としてこなれていないのが惜しい。原作を読んでいればおおまかにはわかるけど、意味や語順がおそらく英語の原詞に忠実すぎるために、飲み込みにくい。倒置文の助詞が次のフレーズにこぼれたりするのがどうも、二人とも歌声はすばらしいのにもったいない。あともうひとつ、若草物語にジェイン・エアにアリスにシェイクスピアと、孤児のジルーシャが友だちとの読書歴の差を埋めるために読む物語のタイトルがたくさん出てくるところが個人的に原作の大好きなところなんだけど、そして舞台の上は本棚に本だらけでものすごくテンションがあがるんだけど、終演後にステージに近づいて観察したら、小道具の本は特に考証はされていない現代の洋古書だった(笑)。そこはこだわっても仕方ないかもしれないんだけど、ちょっと残念だった。


 ルビコン・シアターのオリジナル版(たぶん)
posted by rico at 03:05| 観劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月02日

あけましておめでとうございます。



 旧年中はたいへんお世話になりました。本年もよろしくお願い申し上げます。

 2013年は初めての小説翻訳、ヴィタ・サックヴィル=ウェスト『エドワーディアンズ』を出しました。ことしの予定としては、おかげさまで単著と翻訳が決まっておりますが、ええと、その遅れ気味で……いやいやがんばります。不透明な未来にまだまだわくわくしています。

 2012年の秋と2013年の5月に、ひと前でお話する機会を持ちました。内容や状況によってお断りすることも多いのですが、じわじわと、おそるおそると、亀の歩みではありますが、できる範囲で世界をひろげていけたらいいなと思っています。

 世界がひろがったといえば、一昨年の冬に俳優のベン・ウィショー君にうっかり足をとられ、そのままずぶずぶと深みにはまり……。おかげでこれまでほとんど縁のなかった舞台芸術全般や、エンターテインメント界の歴史などにも関心を深めています。世界は広いよ! そしてせまいよ! 世の中にはわたしの知らないことがたくさんあるよ! そういえば、ことしはシェイクスピア生誕450年ですってよ。あと第一次世界大戦100年ね。(いったいぜんたいわたしはどこへ行こうというのか……)

 そんなこんなで、ことしもいろんなことに驚いて、ハマって、楽しんでいきたいと思います。だってね、同じところをぐるぐるするより、知らないことを知るのが一番楽しいんですよ。「あーあ」と思うこともあるかもしれませんが、今後もどうか、懲りずによろしくお付き合いくださいませ。
posted by rico at 14:16| メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月27日

近況報告と『花ちゃんとハンナさん』とムック「英国男子」

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 コヴェントガーデンのクリスマス。

 ごぶさたしております。11月に1週間ほど英国に行って帰ってきました。今回は「エンバーミング博物誌」の黒碕薫さんといっしょで、地方はまわらずロンドンのみでしたが、観劇も博物館めぐりもぎっしり詰め込んで充実の旅になりました。(旅の一部は、近々ちょっといつもと違うかたちでお見せできる予定。昔からわたしのこと知ってるかたはニヤッとできるかも・笑)

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『花ちゃんとハンナさん (KCデラックス)』 山名 沢湖
【amazon】 / 【楽天】 / 【紀伊國屋書店】

 山名沢湖さんの『花ちゃんとハンナさん』コミックスが発売になってます。現代のメイド喫茶で働くことになった花ちゃんのもとに、エドワード時代の英国メイド・ハンナさんが現れて……。ほのぼの可愛く、とてもやさしく、大切に丁寧に描かれたお話です。資料や翻訳などいろいろ協力しました。1巻完結で、山名沢湖作品入門にも、ごぶさたの再会にも最適。どうかよろしくよろしく。


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「英国男子」[雑誌]EYESCREAM2014年3月号増刊

 2014年1月31日に、スペースシャワーBOOKSより、人気の英国男優を集めたフルカラー写真集が発売になります。メインはカバー写真のベネディクト・カンバーバッチさんと、なんとわたしの好きな(もう一つブログを立ち上げ、舞台めあてに2回めの渡英をしてしまうほど大好きな)ベン・ウィショー君! ですってよ! ひええ、ウィショー君の時代が来ちゃったよ。

「そういう時代が来た」、のかどうかはわかりませんが、監修の山崎まどかさんにお誘いいただいて、わたしも80年代以降の流れを考えるエッセイを書きました。ご高覧いただけますと幸いです。


 ことしはクリスマスのエントリを書くぞ、と思っていたのだけど果たせずじまいだったので、こちらのブログを読んで下さっているあのひとの顔を思い浮かべながら、ツイッターでつぶやいていた話を折り畳み以下に貼り付けておきます。

 良いお年を。

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posted by rico at 10:17| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月24日

「ヴィクトリア時代の室内装飾」と「夜想 少女特集」と活動報告

 ごぶさたしております。いろいろと亀の歩みで活動しております。

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「ヴィクトリア時代の室内装飾‐女性たちのユートピア‐ 展」
インテリアに熱いまなざしが向けられたヴィクトリア時代。台頭してきた中産階級の人々は室内装飾に対してどのような夢を抱いていたのでしょうか。
本展では、ヴィクトリアン・インテリアの再現コーナーをはじめ、当時の室内装飾の様子を窺い知る様々な実物資料をとおして、ヴィクトリアン・インテリアの興隆を支えた女性たちが求めた理想の家庭像を浮き彫りにします。
ギャラリー大阪: 2013年8月25日(土)〜2013年11月19日(火)
休館日:水曜日□10:00〜17:00 □入場無料



 大阪グランフロント内リクシルギャラリーにて開催中の展覧会に協力しました。展示パネルにも一箇所、エッセイ的な原稿を書いてます(メイドの仕事について、署名があるもの)。

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 19世紀の雑誌「ガールズ・オウン」や「カッセルズ・ファミリー・マガジン」などを蔵書から提供し、展示していただいてます。図版を部分的に本で紹介することはあるけれど、実物のかたちではふだんは日の目を見ないものなので嬉しいです。入り口のところで見慣れた本がケースに入ってるのに遭遇してびっくり。普段わりと雑に扱っちゃってるのに立派になって……(笑)。

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 1886年のドールズハウスが可愛い。



『ヴィクトリア時代の室内装飾 -女性たちのユートピア-』

紀伊國屋書店で購入 / 楽天ブックスで購入 / amazonで購入

 展覧会の図録としてつくられたブックレットに「メイドの目で見たヴィクトリア時代のインテリア」を寄稿しています。
 川端有子先生、吉村典子先生の文章がすばらしいのでよろしければぜひ。

 現在発売中の仕事もうひとつ。新しい『夜想』が出ました。



夜想#少女(公式)
「少女と読書――百年前の英国の場合」を寄稿しました。

公式通販で購入 / 紀伊國屋書店で購入 / 楽天ブックスで購入

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 こんな図版とか
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 こんな図版とか
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 こんな写真とかたくさん添えてます(個人蔵)。

 5年前の『夜想#ヴィクトリアン』で書いた原稿は、その後のわたしの方向性を決定づける道しるべになってくれました。今回はどうでしょうか。

 なお『夜想』近況欄でこっそり報告してますが、現在は「上流階級の家庭に潜り込んで殺人を繰り返したという〈怪物執事〉に関する実録本の翻訳」と「貴族の少女たちの日常生活に関する著作」を2014年刊行予定で準備中。どっちもなかなか歯ごたえがあり、あいかわらず苦しんでます。

 そんな折ですが、ベン・ウィショー君が今年2回目の舞台に立つというので、11月にはことし2度目の渡英を敢行します。今回は地方にはいかずロンドンのみ、観劇メインの貧乏旅行の予定。もろもろよろしくお願いします。

posted by rico at 11:38| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月02日

『エドワーディアンズ』の舞台となった大邸宅〈ノール〉、100年とすこし昔の姿


『エドワーディアンズ 英国貴族の日々』
ヴィタ・サックヴィル=ウェスト著 村上リコ訳
【amazon】 / 【楽天】 / 【紀伊國屋書店】

 無事に発売になりました。ヴィタ・サックヴィル=ウェストが1930年に発表した小説の翻訳です。

 1905年の英国。美しい19歳の公爵セバスチャンは、わが身を縛る地位と伝統に鬱屈した思いを抱いていた。彼は恋愛に突破口を求め、〈社交界の花形美女(プロフェッショナル・ビューティー)〉である伯爵夫人シルヴィアとの関係に踏み出していく。ハウス・パーティーに招かれていた探検家のレナード・アンクティルは、そんなセバスチャンをよそ者の眼で観察し、一瞬の交流を果たす。絢爛たるロンドン社交期、大所領のクリスマス・パーティー、若き公爵がたどるさらなる愛の冒険、やがて訪れる新国王の戴冠式……。
 エドワード七世(在位1901〜10年)時代の英国を舞台に、みずからも男爵家の令嬢として上流社会に育った著者が、その体験をあますところなく描き出した実録的ロマンス。フィクションではあるが、20世紀初頭における英国上流社交界のようす、貴族や使用人の暮らしぶり、人びとの階級観や倫理観をうかがい知ることができる貴重なテキストでもある。

 さて。作者のヴィタが、1920年代に深い仲であった同性の恋人にヴァージニア・ウルフがいる。ヴァージニアは、ヴィタを喜ばせるために、彼女と、彼女の育った邸宅〈ノール〉をモデルにして、不思議な中編小説『オーランドー』を書いた。

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『オーランドー (ちくま文庫)』
ヴァージニア ウルフ 杉山 洋子訳

 美しいが、ちょっぴりどんくさいところのある若い貴族が、16世紀のエリザベス一世時代から、小説発表時の1920年代までの長い年月を、恋や戦争や詩作にうつつを抜かし、なぜだか老いないまま、途中で男性から女性に変わりながら、ずっと生き続ける、という架空の伝記物語。

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オルランド 特別版 [DVD]
サリー・ポッター

 サリー・ポッター監督、ティルダ・スウィントン主演で1992年に映画にもなっている。邦題は「オルランド」。こちらではオルランドが老いない理由も付け足してある。それにしてもたいそう美しく、ファニーで、夢のような映画。大好き。

 ヴァージニアから小説『オーランドー』を捧げられたヴィタは喜び、やがて自分でもノールで過ごした少女時代の思い出をもとにした小説を書くことにした。それが『エドワーディアンズ』。つまり邸宅〈ノール〉はヴィタの実家であり、『オーランドー』と『エドワーディアンズ』ふたつの物語が生まれた場所でもある。

 きょう、たまたま別件の資料をそろえていたら『More Famous Homes of Great Britain』という1899年発行の大邸宅案内本に〈ノール〉も載っていることに気がついた。解説文を書いているのはサックヴィル卿。すなわちヴィタの祖父、時期からみて二代サックヴィル男爵ライオネルである。なお、リンク先のinternet archiveでは電子書籍が無料で全文読めてしまう。すごい世の中になった。中身は1902年のアメリカ版らしい。

 せっかくなのですこし画像をご紹介。

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 中庭から見たエントランス。旗がひるがえる。見た感じは現在とほとんど変わらない。ただ、傷みは激しいようで、2012年秋に再訪したときは、あちこち布で覆って修復をすすめていた。

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 逃走を旨とする主人公のセバスチャンが駆け上がっていったかもしれない階段。

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 〈大ホール〉。壁の上部に「家紋の豹」がいる。クリスマスツリーが飾られて、パーティーが行われたかも。

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 〈王の間〉。『エドワーディアンズ』のなかでは〈女王の間〉に変えてある。巨大な四柱式寝台、豪華なカーテンや上掛け、テーブルは銀でできている。六章のクライマックスはここで。

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 〈茶の長広間〉。肖像画がずらりと並ぶ。印象的な場面で繰り返し登場する。「どれがアンクティルさんに似ていたかしら?」「みんな同じ額に入って、壁の端から端まで渡した綱飾りに名前が書いてあるでしょ。ドレイク、ハワード、ローリー――どれだったかしら?」

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 ヴィタは1892年生まれで、この大邸宅案内本『More Famous Homes』の出版は1899年。つまり写真とイラストは彼女が7歳くらいのときのノールである。そして、小説『エドワーディアンズ』は1905年から始まり、主人公のセバスチャンはその時点で19歳なので、設定上は彼が13歳くらいのころということになる。物語の舞台となった場所がどんな姿をしているかわかると、想像が広がる。挿絵のつもりでお楽しみいただければ幸いである。
posted by rico at 17:16| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月22日

『エドワーディアンズ』装画について


『エドワーディアンズ 英国貴族の日々』
ヴィタ・サックヴィル=ウェスト著 村上リコ訳
【amazon】 / 【楽天】 / 【紀伊國屋書店】


 もうじき発売の新刊翻訳書です。一部のオンライン書店に書影がアップされました。内容紹介文もふくめ、随時更新されていくかと思います。なお、詳しい内容や出版の経緯についてはひとつ前の記事をごらんください。

 今回の装画として使用している絵は、ジョン・シンガー・サージェントによる「ウォリック卿夫人とその息子」1905年。制作年は時代設定にばっちりです。登場人物の誰かのイメージということではないのですが(主人公である美青年公爵セバスチャンの少年時代、と思ってください。いや栗色巻き毛じゃないけれど……)。

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 twitterでもすこし触れましたが、この絵のモデル、第五代ウォリック伯爵夫人デイジーというひとは、当時の上流社交界で数々の浮名を流した美人で、皇太子時代のエドワード七世の愛人でもありました。ちなみに19世紀の流行歌「デイジー・ベル」のモデルとも言われているみたいで、歌になぞらえて「デイジー、デイジー」と繰り返し女の子に呼びかける場面をいろんなところで見る気がします。「華麗なるギャツビー」にも出てきたし、あとはやっぱり「2001年宇宙の旅」で宇宙船のコンピュータがこの歌を歌う場面が忘れがたく……って、カバーの話からずいぶん脱線してしまいました。

『エドワーディアンズ』とは、エドワード時代の人びと、という意味。エドワード七世時代の上流社会の模様をうつしとった社交界小説です。ちょっとねたばれをすると、小説の冒頭に「この本のなかのいずれの人物も、完全に架空の人物ではない。」という堂々たるはしがきがあって、つまり登場人物にはそれぞれモデルがいます。メインのキャラクターには独自の名前が与えられているものの、それとは別に当時の有名人、貴族、政治家、芸能人、作家や画家などの名もどんどん出てきて忙しいくらい。このウォリック卿夫人と画家のサージェントも、名前だけ、何度か繰り返し登場します。

 19世紀末から20世紀初頭、華やかで贅沢でちょっと軽薄な、エドワード七世の仲間集団の空気を代表するような女性と、美しい子どもの肖像。何かしら縁とつながりを感じる表紙ができました。

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posted by rico at 21:28| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月21日

ヴィタ・サックヴィル=ウェスト『エドワーディアンズ』来週発売

 翻訳を手がけた小説が無事に本になり、来週発売されます。



『エドワーディアンズ 英国貴族の日々』

ヴィタ・サックヴィル=ウェスト著 村上リコ訳
【amazon】 / 【楽天】 / 【紀伊國屋書店】

 1905年の英国。美しい19歳の公爵セバスチャンは、わが身を縛る地位と伝統に鬱屈した思いを抱いていた。彼は恋愛に突破口を求め、〈社交界の花形美女(プロフェッショナル・ビューティー)〉である伯爵夫人シルヴィアとの関係に踏み出していく。ハウス・パーティーに招かれていた探検家のレナード・アンクティルは、そんなセバスチャンをよそ者の眼で観察し、一瞬の交流を果たす。絢爛たるロンドン社交期、大所領のクリスマス・パーティー、若き公爵がたどるさらなる愛の冒険、やがて訪れる新国王の戴冠式……。
 エドワード七世(在位1901〜10年)時代の英国を舞台に、みずからも男爵家の令嬢として上流社会に育った著者が、その体験をあますところなく描き出した実録的ロマンス。フィクションではあるが、20世紀初頭における英国上流社交界のようす、貴族や使用人の暮らしぶり、人びとの階級観や倫理観をうかがい知ることができる貴重なテキストでもある。

 原書は1930年初版。著者はヴィタ・サックヴィル=ウェスト(1892〜1962年)。ひとことでは言い尽くせない、とても多くの顔を持つ女性です。サックヴィル男爵家令嬢にして作家、詩人、造園家、ヴァージニア・ウルフの同性の恋人……そしてウルフの小説『オーランドー』のモデル。

 夫のハロルド・ニコルソンとは深い絆で結ばれながら、夫妻ともに婚姻外に同性との恋を求めました。ヴィタは1920年ごろにヴァイオレット・トレフューシスという女性との駆け落ち事件を起こしていて、その経緯を自身で記した秘密の日記を、息子のナイジェルが編纂した『ある結婚の肖像』も出版されています(平凡社から邦訳あり。ものすごく面白いのでぜひ増刷・再発してほしい)。

 ヴィタといえば〈シシングハースト〉、というくらい、ガーデニングの世界でもよく知られています。彼女はこの小説を出したあと(非常によく売れたのでたぶんその収入で)、シシングハースト・カースルという古い建物と地所を買い取り、夫と二人で庭造りにはげみました。現在ではナショナルトラストに管理され、彼女のつくった庭を見るためだけに世界各地から訪問するひとが絶えません。

 本人があまりにも個性的で魅力的なので、文学史上のゴシップめいた関心はひいてきたけれど、小説の翻訳はいままでありませんでした。あったら読みたいよ、ないなら訳させて、と企画書を書いて持ち込み、本邦初訳のはこびとなったわけです。

 サリー・ポッター監督、ティルダ・スウィントン主演の映画版『オルランド』(1992年)が大好きなこと。ヴィタの生家〈ノール〉に訪れたことがあり、こちらも大好きなこと。この小説をぜひ訳したい、と思った理由はさまざまあります。しかしやはり、長い伝統を持つ貴族の家に生まれ育った著者が、100年ほど昔の上流社会の暮らしぶりをこと細かに書いているということが大きな魅力でした。英国貴族と家事使用人の生活について、いろいろ読んだり考えたり書いたりするようになって10年くらいになりますが、『エドワーディアンズ』は小説ながら、風俗・習慣を知るソースとして利用している本にしばしば出会います。

 小説の翻訳は初めての体験で、ページ数以上に苦労してしまいました。ぜひお手に取っていただけると幸いです。
posted by rico at 15:08| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする