2013年08月02日

『エドワーディアンズ』の舞台となった大邸宅〈ノール〉、100年とすこし昔の姿


『エドワーディアンズ 英国貴族の日々』
ヴィタ・サックヴィル=ウェスト著 村上リコ訳
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 無事に発売になりました。ヴィタ・サックヴィル=ウェストが1930年に発表した小説の翻訳です。

 1905年の英国。美しい19歳の公爵セバスチャンは、わが身を縛る地位と伝統に鬱屈した思いを抱いていた。彼は恋愛に突破口を求め、〈社交界の花形美女(プロフェッショナル・ビューティー)〉である伯爵夫人シルヴィアとの関係に踏み出していく。ハウス・パーティーに招かれていた探検家のレナード・アンクティルは、そんなセバスチャンをよそ者の眼で観察し、一瞬の交流を果たす。絢爛たるロンドン社交期、大所領のクリスマス・パーティー、若き公爵がたどるさらなる愛の冒険、やがて訪れる新国王の戴冠式……。
 エドワード七世(在位1901〜10年)時代の英国を舞台に、みずからも男爵家の令嬢として上流社会に育った著者が、その体験をあますところなく描き出した実録的ロマンス。フィクションではあるが、20世紀初頭における英国上流社交界のようす、貴族や使用人の暮らしぶり、人びとの階級観や倫理観をうかがい知ることができる貴重なテキストでもある。

 さて。作者のヴィタが、1920年代に深い仲であった同性の恋人にヴァージニア・ウルフがいる。ヴァージニアは、ヴィタを喜ばせるために、彼女と、彼女の育った邸宅〈ノール〉をモデルにして、不思議な中編小説『オーランドー』を書いた。

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『オーランドー (ちくま文庫)』
ヴァージニア ウルフ 杉山 洋子訳

 美しいが、ちょっぴりどんくさいところのある若い貴族が、16世紀のエリザベス一世時代から、小説発表時の1920年代までの長い年月を、恋や戦争や詩作にうつつを抜かし、なぜだか老いないまま、途中で男性から女性に変わりながら、ずっと生き続ける、という架空の伝記物語。

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オルランド 特別版 [DVD]
サリー・ポッター

 サリー・ポッター監督、ティルダ・スウィントン主演で1992年に映画にもなっている。邦題は「オルランド」。こちらではオルランドが老いない理由も付け足してある。それにしてもたいそう美しく、ファニーで、夢のような映画。大好き。

 ヴァージニアから小説『オーランドー』を捧げられたヴィタは喜び、やがて自分でもノールで過ごした少女時代の思い出をもとにした小説を書くことにした。それが『エドワーディアンズ』。つまり邸宅〈ノール〉はヴィタの実家であり、『オーランドー』と『エドワーディアンズ』ふたつの物語が生まれた場所でもある。

 きょう、たまたま別件の資料をそろえていたら『More Famous Homes of Great Britain』という1899年発行の大邸宅案内本に〈ノール〉も載っていることに気がついた。解説文を書いているのはサックヴィル卿。すなわちヴィタの祖父、時期からみて二代サックヴィル男爵ライオネルである。なお、リンク先のinternet archiveでは電子書籍が無料で全文読めてしまう。すごい世の中になった。中身は1902年のアメリカ版らしい。

 せっかくなのですこし画像をご紹介。

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 中庭から見たエントランス。旗がひるがえる。見た感じは現在とほとんど変わらない。ただ、傷みは激しいようで、2012年秋に再訪したときは、あちこち布で覆って修復をすすめていた。

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 逃走を旨とする主人公のセバスチャンが駆け上がっていったかもしれない階段。

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 〈大ホール〉。壁の上部に「家紋の豹」がいる。クリスマスツリーが飾られて、パーティーが行われたかも。

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 〈王の間〉。『エドワーディアンズ』のなかでは〈女王の間〉に変えてある。巨大な四柱式寝台、豪華なカーテンや上掛け、テーブルは銀でできている。六章のクライマックスはここで。

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 〈茶の長広間〉。肖像画がずらりと並ぶ。印象的な場面で繰り返し登場する。「どれがアンクティルさんに似ていたかしら?」「みんな同じ額に入って、壁の端から端まで渡した綱飾りに名前が書いてあるでしょ。ドレイク、ハワード、ローリー――どれだったかしら?」

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 ヴィタは1892年生まれで、この大邸宅案内本『More Famous Homes』の出版は1899年。つまり写真とイラストは彼女が7歳くらいのときのノールである。そして、小説『エドワーディアンズ』は1905年から始まり、主人公のセバスチャンはその時点で19歳なので、設定上は彼が13歳くらいのころということになる。物語の舞台となった場所がどんな姿をしているかわかると、想像が広がる。挿絵のつもりでお楽しみいただければ幸いである。
posted by rico at 17:16| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする