2013年06月21日

ヴィタ・サックヴィル=ウェスト『エドワーディアンズ』来週発売

 翻訳を手がけた小説が無事に本になり、来週発売されます。



『エドワーディアンズ 英国貴族の日々』

ヴィタ・サックヴィル=ウェスト著 村上リコ訳
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 1905年の英国。美しい19歳の公爵セバスチャンは、わが身を縛る地位と伝統に鬱屈した思いを抱いていた。彼は恋愛に突破口を求め、〈社交界の花形美女(プロフェッショナル・ビューティー)〉である伯爵夫人シルヴィアとの関係に踏み出していく。ハウス・パーティーに招かれていた探検家のレナード・アンクティルは、そんなセバスチャンをよそ者の眼で観察し、一瞬の交流を果たす。絢爛たるロンドン社交期、大所領のクリスマス・パーティー、若き公爵がたどるさらなる愛の冒険、やがて訪れる新国王の戴冠式……。
 エドワード七世(在位1901〜10年)時代の英国を舞台に、みずからも男爵家の令嬢として上流社会に育った著者が、その体験をあますところなく描き出した実録的ロマンス。フィクションではあるが、20世紀初頭における英国上流社交界のようす、貴族や使用人の暮らしぶり、人びとの階級観や倫理観をうかがい知ることができる貴重なテキストでもある。

 原書は1930年初版。著者はヴィタ・サックヴィル=ウェスト(1892〜1962年)。ひとことでは言い尽くせない、とても多くの顔を持つ女性です。サックヴィル男爵家令嬢にして作家、詩人、造園家、ヴァージニア・ウルフの同性の恋人……そしてウルフの小説『オーランドー』のモデル。

 夫のハロルド・ニコルソンとは深い絆で結ばれながら、夫妻ともに婚姻外に同性との恋を求めました。ヴィタは1920年ごろにヴァイオレット・トレフューシスという女性との駆け落ち事件を起こしていて、その経緯を自身で記した秘密の日記を、息子のナイジェルが編纂した『ある結婚の肖像』も出版されています(平凡社から邦訳あり。ものすごく面白いのでぜひ増刷・再発してほしい)。

 ヴィタといえば〈シシングハースト〉、というくらい、ガーデニングの世界でもよく知られています。彼女はこの小説を出したあと(非常によく売れたのでたぶんその収入で)、シシングハースト・カースルという古い建物と地所を買い取り、夫と二人で庭造りにはげみました。現在ではナショナルトラストに管理され、彼女のつくった庭を見るためだけに世界各地から訪問するひとが絶えません。

 本人があまりにも個性的で魅力的なので、文学史上のゴシップめいた関心はひいてきたけれど、小説の翻訳はいままでありませんでした。あったら読みたいよ、ないなら訳させて、と企画書を書いて持ち込み、本邦初訳のはこびとなったわけです。

 サリー・ポッター監督、ティルダ・スウィントン主演の映画版『オルランド』(1992年)が大好きなこと。ヴィタの生家〈ノール〉に訪れたことがあり、こちらも大好きなこと。この小説をぜひ訳したい、と思った理由はさまざまあります。しかしやはり、長い伝統を持つ貴族の家に生まれ育った著者が、100年ほど昔の上流社会の暮らしぶりをこと細かに書いているということが大きな魅力でした。英国貴族と家事使用人の生活について、いろいろ読んだり考えたり書いたりするようになって10年くらいになりますが、『エドワーディアンズ』は小説ながら、風俗・習慣を知るソースとして利用している本にしばしば出会います。

 小説の翻訳は初めての体験で、ページ数以上に苦労してしまいました。ぜひお手に取っていただけると幸いです。
posted by rico at 15:08| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする