2012年10月16日

『図説 メイドと執事の文化誌』発売中

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図説 メイドと執事の文化誌
シャーン・エヴァンズ著 村上リコ訳 原書房
【amazon】 / 【楽天ブックス】 / 【紀伊國屋書店】

 翻訳を担当した本が、9月末に発売されました。順調と聞いていますが、発行部数が少なめなので、あまり店頭で出会わないという方もいらっしゃると思います。また、ちょっといい値段でもあり、内容をしっかり吟味したい、という方も。そこで、中の構成と図版の使われ方などをご紹介したいと思います(独断で)。なお、本書の大まかな位置づけ、出版の経緯、原書情報などの基本事項についてはひとつ前の記事にてご紹介しています。

 目次と項目はこんな感じです。

はじめに

◆第1章 使用人としての生活

 階上と階下

◆第2章 階下の登場人物たち
 
 家内の序列/家令/執事/シェフ/コック/キッチン・メイド/スカラリー・メイドとトウィーニー/ホール・ボーイ/スティルルーム・メイド/ハウスキーパー/ハウスメイド/レディーズ・メイド/従者/フットマン/運転手/ランドリー・メイド/家庭教師/ナニーとナースメイド

◆第3章 「大きなお屋敷」の世界
 
 使用人区画/春の大掃除/害虫・害獣/カントリー・ハウスの火災/技術革新が使用人にあたえた影響/領地でとれた食べ物/キッチンの通路を曲がって

◆第4章 日々の職務と大きな催し
 
「階上」の朝食/淑女たちの昼食/アフタヌーン・ティー/晩餐のための着替え/「晩餐のしたくがととのいました」/舞踏会とパーティー/旅行と使用人/王室の訪問/「大きなお屋敷」のクリスマス

◆第5章 使用人の暮らし
 
 使用人を採用する/スタッフの引き抜き/給料と支払い周期/チップと役得/「見えない」使用人/使用人の復讐/使用人との結婚/使用人舞踏会/使用人の自由時間/日曜日ごとの礼拝/使用人の休暇/病気の使用人/国民保険法/老齢/救貧院

◆第6章 終わりの始まり
 
 なぜ終焉を迎えたのか/使用人の不足/移民/「淑女手伝い」――使用人の代わりとして/第一次世界大戦

謝辞
訳者あとがき
主要参考文献
索引


◆第1章 使用人としての生活 では、過去の英国における大邸宅の世界で、家事使用人として生きるというのはどういうことだったのか、彼女ら彼らはどのような位置づけであったのか、歴史を押さえつつ簡単に説明します。

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メイドになる少女たちにとって「お屋敷づとめ」とは?

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エドワード七世時代に改装されたキッチン。

◆第2章 階下の登場人物たち では、19世紀末から20世紀初頭までの時代のカントリー・ハウスの家事使用人を、職種ごとに分けて解説しています。図版はすべてカラー。モノクロの記録写真であっても、セピアの元の色をきれいに再現しています。

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執事の作業室と燕尾服。

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ハウスキーパーとスティルルーム・メイドがジャムなどをつくるスティルルーム。

◆第3章 「大きなお屋敷」の世界 は、英国の大邸宅の構造と、個別の部屋の機能にフォーカスをあてています。

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長屋の屋外トイレ。キッチン、トイレ、バス、醸造室……。珍しい写真がたくさん。

◆第4章 日々の職務と大きな催し は、100年前のカントリー・ハウスの主人たちの豪奢な(そして意外に気苦労も多い)暮らしぶりについて。朝食、昼食、午後のお茶、晩餐といった日常から、パーティー、旅行などの季節のイベントまで。華やかな写真が多い章です。

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飾り付けられた晩餐室。

 ◆第5章 使用人の暮らし は、コックやメイドや執事たちの日常生活について。それぞれの邸宅に残る個人の証言が生きるパートです。

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質素な使用人専用階段。メイドは姿を隠して働くことを求められた。

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ナショナル・トラストの保有する救貧院。いつか見に行きたい……。

◆第6章 終わりの始まり は、使用人が姿を消してゆく過程について。少し駆け足ぎみではありますが、貴族と使用人の世界が第一次世界大戦をどのように体験したのかという、最後のパートが白眉。時代背景はドラマ「ダウントン・アビー」の世界に重なります。

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20世紀初頭のメイドと犬。
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カントリー・ハウスは兵士たちの療養所として使われた。

 私の前著『図説 英国メイドの日常』や『図説 英国執事』で触れたおなじみのエピソードもありますが、初めて接する情報も多く、翻訳しながらとても勉強になりました。これは、各地の大邸宅を保存・修復する過程で収集した、家ごとの記録や、独自の口述ソースを活用しているからです。

 先月、英国に旅行し、イングランド北部の「クラッグサイド」という邸宅を訪ねました。「使用人の集合写真を展示していたら、そこに写っていたコックとフットマンの身元が新たにわかった」「その人物の血縁の人びとに話をきくことで、貴重な情報がつぎつぎに判明」ということがあったそうで、「使用人の暮らし」にフォーカスをあてた小さな展覧会を開いていました。さまざまな史料を大切に保管し、一般に公開し、地域の人びとと交流するなかで、口述歴史の糸は紡がれつづけているのですね。

 英国時代もののドラマや映画やアニメなどを見て、背景に興味がわいてきた方にも、私のこれまでの本をすでに読んでくださった方にも、興味深く読める本になっているはずです。ぜひお手にとっていただけますと幸いです。
posted by rico at 12:34| 仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする